ガンダムビルドダイバーズワールドチャレンジ ジムとボールの世界に挑戦!

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「Girls Just Want To Have Fun 〜 女の子は楽しみたいの! 〜」

 ジムとボール、そしてローレッタは、シモダに連れられて事務所裏の倉庫へやって来た。

 シモダは三人を中に招き入れると明かりをつけた。簡素で小ぶりな体育館ほどの広さの、天井の高い造りの中に、フォースネスト改装改築用の建材や家具や調度品などが所狭しと積み置かれている。

「僕らに見せたいものってなにかな?」

 ボールは、皆を先へと案内し進むシモダの背中を見ながら、隣を歩くローレッタに聞いた。彼女も首をかしげる。

「つーか」ジムは前を歩くシモダに、「ゴールデン・ポリキャップの持ち主ってことは、あんたもレジェンドガンプラのビルダーってことだよな?」

 そう問おうとして──ふと、言葉を飲み込み、足を止めた。

 ボールとローレッタも唖然と立ち止まる。

 奥の巨大ラックに、それは鎮座し置かれていた。フォースネスト関連の品々とは明らかに異質なマテリアル。

 三人は、圧倒されながら見上げた。

「これって……ガンプラのウェポンじゃね!?」

 洩らすように聞いたジムに、シモダは、

「まだ造りかけですが」

 まんざらでもないふうに答えた。

 ボールは、記憶の中を探った。

「僕のエアトリセツの中に、こんな武器ない……ひょっとしてオリジナル?」

「はい、多目的統合コンセプトウェポンモジュラー『GHL‐TBA』です」

 未完成ながらも、既に頼もしさが溢れ見える勇猛なそのフォルムに、ジムとボールは息を飲んだ。

「なんかすげぇ!」

「GHL……って何の略?」

「『ガンアタック・ハイパーベロシティ・リンクアップ』です!」

「……って、どんな意味?」

 ジムの問いに、シモダは答えた。

「わかりません! 雰囲気で名付けました!」

「えええーっ!」

「じゃ、TBAも適当?」

 ローレッタが聞いた。

「そっちは、To Be Announced です」

「『後日発表』……?」

「本当はあとでちゃんとした名称をつけようと思っていまして、その意思の欠片くらいは、と……」

 シモダが告げた、その時だった。

 突如急接近してきた激しいスラスターブラストが、強烈な嵐のように倉庫に叩きつけ建物全体を揺さぶりはじめた。

『楽しそうなガンプラバトル・コンテスト、開催されてるってお聞きしてお邪魔したのに……野暮用のせいで間に合わなかったみたいだわ』

 耳に心地よい上品でキュートな女の子の声。拡声スピーカから発せられているらしく、頭上から聞こえてくる。

 驚き見上げた皆の視線の先で、いきなり天井が巨大な手によってバリバリと引き剥がされた、鋭く輝くガンプラの眼が倉庫内をのぞきこむ。

「あのガンプラ……キュベレイ!?」

 キュベレイは、その手を倉庫の中に強引にねじ込んで、

『あーあ、いっつもそう。まったくもって気に入らないので、自主的に参加賞を頂戴していきますね』

「なんかやばい!」

 ボールは反射的に駈けだした、ジムも続く。

「んだよあいつ!」

 外に出た。MGキュベレイをベースにした見事な造形のカスタムガンプラ、その巨体が覆い被さるようにして倉庫の中に手を突っこんでいる。

 二人は慌てて駐機させておいたポリポッドボールとストームブリンガーを起動させた。

 倉庫の中では恐怖するローレッタをシモダが抱き守っている。その目前でキュベレイの手がGHL‐TBAを鷲掴んだ。奪い飛び去ろうとする。

「ちょ、待てよ!」

 起動完了したポリポッドボールが、それを制止した。

『あぁ?』

 キュベレイがポリポッドボールの方を向く。

『なに、この……虫』

 キュートだった口調が、本性を剥き出した。

『キモぃ……来んな、寄んな、触んないでくれる……この反吐ムシ!』

 引き止めようとしたポリポッドボールを、キュベレイが力の限り払いのける。

咄嗟にかわすも180mmキャノンが吹き飛んだ。

「なにすんだ!」

 遅れ起動完了したジムのストームブリンガーが詰め寄ろうとする。しかし一瞬早くキュベレイがスラスターを全開に吹かして飛翔、飛び去った。ストームブリンガーも追おうとしたが、

「構いません!」

 シモダが、ローレッタと一緒に倉庫の中から出てきた。

 ジムとボールは、それぞれのコクピットから「え?」と戸惑いながらシモダを見下ろした。

「でも──!」

「大丈夫です、GHL‐TBAの予備パーツならまだあるから、それに……」

 シモダは、飛び去ったキュベレイを見送りながら、

「さっきのガンプラのダイバーが誰かはわかりませんが、誰であろうと……もしボクが作ったものが役に立つというなら、それは嬉しいことです」

 ローレッタに、自信を得た表情を向け、

「そうだね、リアルで射出成形出来るように、GBNに譲渡申請しとかないと」

 ローレッタもびっくり顔でシモダを見た。

「もしよかったら──」

 シモダは、ストームブリンガーとポリポッドボールを見上げた。

「君たちにも貰って欲しい」

 ジムとボールは、驚きを重ねた。

「君たちの手で、君たちのGHLを完成させてくれないか」

「もしかして……」ボールは気づいた。

「そのために、僕たちを倉庫へ?」

 シモダは答える代わりに、壊れた倉庫を見上げた。

「ボクは、倉庫の屋根を直すところから始めます。人のフォースネストばかり気にしてて、雨漏りもそのままだったし、ちょうどよかった」

 シモダの視線は。壊れた屋根の、その先の空を見ている。

 ローレッタは微笑みを向けた。

 ジムとボールも思わず笑った。そして──

「……あのキュベレイ……なんだったんだ?」


 ボールが念願だったアイドルバンドグループ『プチ・ルー』のライヴを訪れたのは、その翌日だった。推しは長女ギター(リードギター)の『のぞみん』。ねっとりと汗ばんだ熱気で満ちるステージを、ボールは存分に堪能した。  

 彼女たちの楽屋に、GBNで遭遇したMGキュベレイと、大量のガンプラが飾られていることを、この時の彼はまだ知らなかった。