ガンダムビルドダイバーズワールドチャレンジ ジムとボールの世界に挑戦!

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「Here I go again 〜 また、はじめるぜ 〜」

 そのガンプラは、追い詰められたポリポッドボールをからめ捕り身動きできなくさせている廃材デブリに向けて、ビールライフルを放った。大出力で一気に薙ぎ払う、退路が開けた。

「180mmキャノンじゃ、速射しても逃げ道つくれなかったのに!」

 九死に一生を得たボールは思わず声を洩らしつつ、急ぎシモダのストライクフリーダムMR‐Gとの距離を確保すると、自分を背後に守るように割り入った目の前の勇姿に、息を飲んだ。

 優性進化者たるジム・ドミナンスの正統なる凜々しさと、猛者のたてがみがごとき乱気流を思わせるジム・タービュランスの激しさとを兼ね備え、かつ、その双方を完膚なきまでに蹴散してしまうような、まったく新しい可能性を具現化した──

「ジム……そのガンプラ……?」

 驚くボールに、コクピットのジムは、フフンと鼻を鳴らして、

「ガンダム・ストームブリンガー!」

 対峙しているシモダのストフリMR‐Gを睨みながら答えた。

「このあいだのヨシの、ゼータキュアノスとやったパーリィ──」前エピソード、蕎麦デリバリー『三木亭』の、レジェンドガンプラ・オーナーとのバトルの事だ。「あん時は結局ボール、お前がセリカちゃんを空にぶん投げてくれたおかげで、負けはしなかった、けど……心底ゴキゲンってわけでもなかった」

「勝てなかったから?」

「ああ……で、考えてみた。それってオレが弱かったからか? んなワケねぇ、オレはいつでもサイコーだ。じゃ、ヨシが強かったから? ひょっとしたらそれはあるかもしれない。けど、ホントのワケは別にある……」

「本当の理由?」ボールは思わず復誦した。

「ああ、オレが勝てなかったマジな理由、それは……ヨシのガンプラがガンダムだったのに、オレのガンプラがガンダムじゃなかったらだ!」

「シンプル!」

 ボールは、稲妻に脊髄貫かれんばかりの衝撃に、ケツ弾かれたように叫んだ。まさにジムにふさわしい思考ロジック。

 確かに、いま目の前にいるジムの新しいガンダムの勇ましさは、ヨシのゼータキュアノスに、そして、シモダのストフリMR‐Gともがっぷり四つに組んで肩を並べる。

「ストームブリンガー……」

 訪ねるようにボールは呟いた。

「知らねぇの? 『混沌の嵐の剣』ってミーニング」

「お前がよくそんな……教養溢れるネーミングを……」

「んなのオレが思いつくわけねぇし! フィアンセのヴィオラに頼んで──」

 言いかけて、ジムは慌ててゴニョゴニョ言葉を濁した。

「そうだったんだ……そんな凄いガンダムつくってまで……」

 ふと、驚きに目を見開いていたボールの表情が、険しくなった。

「僕が狙ってたゴールデン・ポリキャップ横取りしようってんだね?」

 こちらはこちらで残念な思考だ。

「はぁ? なにそれ?」

「ゴールデン・ポリキャップ一人で総取りして、僕抜きでレッツ・パーリィしようって魂胆なんだろ!」

「わけわかんねぇんだけど?」

「わけわかんないのはこっちだよ!」

 いいや、一番わけわからなく思っているのはシモダだ。いきなり目の前にジムのストームブリンガーが現れたかと思えば、自分そっちのけでガンプラバトルならぬ痴話バトルがはじまったのだから。

 シモダはここまでで、ボール以外の挑戦相手を全機撃破していた。

 まずは宇宙区間での戦闘に強みを誇る『MG ザク06R』とのバトルに、ボリュームアップさせた無重量域機動用スラスター・バーニアをたくみに駆使し勝利した。

 次いで、大気圏内環境での戦闘なら有利と、付近の廃棄コロニーにまでシモダを引き込んだ『MG リゼル隊長機』に対しては、より剛性を強化した空力マニューバ対策が功を奏した。

 続いて重武装に特化した『MG FAZZ』を、更には重厚な装甲を誇る『MG ガンダムNT‐1(チョバムアーマー付き)』を、それぞれ他キットから流用し装着したパーツによる機能強化で。

 そして、メッキ全開のキラキラ感を武器に押し出し立ち向かってきた『MG ガンダムベース限定トールギススペシャルコーティングバージョン』すらも、もともとセクシーなキットをよりいっそうプロポーションアップさせておいたストフリMR‐Gは、華麗にグラマラスに蹴散らした。

 自らの戦果に、シモダは自身、驚いた。

 しかし、シャトルのキャビンから見守っていたローレッタは、驚きはしなかった。

 彼の全部盛りのセンスは、けっして欠点ではない──個性だ。持てる力のすべてをもって仕事にぶつかろうとしている姿勢の現れだ。そしてその熱量は、彼のガンプラからも滲み溢れている。

 勝ち負けは重要じゃない。けれど、シモダならきっと、やり遂げられる。

 そんなローレッタの気持ちをボールは、そしてジムも…………当然、知る由などなかった。

「これ以上、邪魔させない……!」

 ボールは、ガンダム・ストームブリンガーの猛々しさに呑み込まれまいと、必死に声を絞り出した。

「これ以上、ローレッタに格好悪いトコ見せらんないし!」

「ローレッタ……って、だれ!?」

 ジムは意表をつかれたように驚き訪ねた。

「ひょっとして、イケてる女子か?」

 ふと形勢が逆転する音がした。一転ボールは、「まぁね」と勝ち誇ったように、

「ジムがせっせとストームブリンガー組み上げてる間に、僕は順調に恋の坂道、のぼりはじめてたってやつ?」

 ローレッタはゾゾゾッっと虫酸が走るのを感じた。二人のフォース回線通話はシャトルには聞こえていないにもかかわらず。

「ボールの方こそ、オレをハブって、ひとりでいい子ちゃんとラブラブエンジョイライフ楽しもうって段取りだったのかよ!」

 ストームブリンガーが、ボールの胸ぐらに掴みかからんばかりの勢いで、ポリポッドボールにダッシュした。

「だから一人で楽しもうとしてたのはそっちだろ!」

 はじき飛ばされまいとポリポッドボールは、イ・ロ・ハ・ニの全四脚でデブリを踏みつけ踏ん張った。

 二人がぶつかろうとした──その時、ストームブリンガーの目前に、シモダのストフリMR‐Gが割り入った。「!」っと慌てストームブリンガーがフル・バーニアで急制動をかける。

 シモダのことをすっかり忘れていたボールもハッとなった。

「んだよ、お前は!」

 ジムは行き場を失った勢いをぶつけた。

「君の方こそなんなんだ!」

 既に四機のガンプラに勝利しているシモダは、物怖じしていない。

「いま、ボクは彼と、ゴールデン・ポリキャップを懸けたバトルをしてるんだ! これはローレッタ女史がくれた大切なチャンス──」

「こっちだって、その女子めぐってこいつと大事な話してんだよ、邪魔すんなよな!」

 噛みつくジムに、シモダは退かない。

「君の方こそ邪魔するな!」

 ボールも賛同した、

「そうだよ邪魔するなよ! ……シモダ!」

 ジムの方に。

「……へ?」シモダと共に、ローレッタも素っ頓狂な声を洩らした。

「僕だって」ボールはシモダに言った。「ローレッタがくれた大切なチャンス、ジムになんかぜってー横取りされたくないんだ!」

「あげてないあげてない、チャンスなんてあげてない、何のチャンスかもわかんない」

 ローレッタは訴えるもボールには届かない、回線なしでは。

 ジムは、シモダのストフリMR‐Gをギッと見据えた。

「オレは売られたケンカは釣り銭突っ返してでも買わねぇと済まねぇタチなんだ! どけよ!」

 ビームライフルを向けた、トリガーを引く。 

 一瞬早くストフリMR‐Gが頭上方向に素早く距離を取った。ストームブリンガーのライフルビームの軌跡が追いかける、しかし、ストフリMR‐Gのマニューバが勝った、当たらない。

「早ぇ!」ジムが舌を打つ。

 対し、シモダもライフルで反撃しようとした──ところに、ポリポッドボールが、全脚の先端マニピュレータで足場としていたデブリを掴むと、

「ジムは僕が潰すんだってば!」

 ストフリMR‐Gに向かって投げつけ牽制した。反射的にシモダは、砲口をストームブリンガーから投げつけられたデブリに向け変えた。

 その隙を逃さず、今度は、ストームブリンガーがライフルを放った。ストフリMR‐Gのスラスターが咆哮をあげる、間一髪かわした。

 ここに急遽、シモダ対ジム&ボール、二対一のガンプラバトルが幕を開けた。

「ボクの本来の対戦相手はあくまでもポリポッドボールだ……まずは、あのガンダムを排除して、舞台を元に戻す!」

 シモダは一刻も早くストームブリンガーを排除しようと考えた。スーパードラグーンのマルチロックオンを対象に集中させ、フルバーストで放って一気にカタをつけるか? しかし、コーディネーターというスペシャルなダイバー設定がない自分にでも、使いこなせるだろうか? いいや──

「駄目でもともと!」

 次の瞬間、ストフリMR‐Gが青く眩い翼を広げ、それが八本の竜の吐くエネルギーの槍となってジムのストームブリンガーに襲いかかった。

 そのすべてを、ストームブリンガーはかわしきった。

 シモダが自ら指摘した通り、彼が使いこなせなかったのか、それともストームブリンガーの機動力が、それを成したのか。いずれにしろ、

「あんなもん食らったらひとたまりもねぇ! あのストフリ半端ねぇな!」

 ジムはシモダのストフリMR‐Gの力に圧倒され、

「彼のあのガンプラ……ただ者じゃない!」

 シモダはジムのストームブリンガーのスペックに舌を巻き、そしてボールは、

「んだよ……なに二人で仲良しエンジョイ・バトルしてんだよ!」

 ポリポッドボールが、無我夢中で180mmキャノンを放つ。

 ひょっとするとシモダは、無意識にポリポッドボールの事を見くびっていたのかもしれない。その油断を突き、キャノンの砲弾が、ストフリMR‐Gにディテールアップパーツとして装着されていた、ストライカージンクスの肩装甲に着弾した。

 Eカーボン製設定であるジンクス装甲の性能値なら本来、キャノン程度の被弾になどビクともしないはずだった。ところが、

「装甲が破断した!?」

 ボールはハッとした、エアガンプラの経験をたどり、理由を探す──ひょっとすると、

「ジム! やつのストフリ、ガンプラの表面処理が甘いのかも知れない!」

「マジ!?」

 シモダ本人も、装甲の破断に驚いた。

「忙しかった仕事の合間を見つけてはせわしなく作ってたから、整面が乱れたままだったのか!?」

 よく見れば、装甲パーツ上に、ゲート処理の際えぐってしまった傷が、いくつか残ったままになっている。

「このままじゃ、機体スペックは想定値から大きく減退する!」

 シモダは自問した。このままバトルを続けても、何も見つけられないまま、敗北してしまうだけかも知れない……棄権するか……?

「……いいや、それでも!」

 シモダは、ストームブリンガーとポリポッドボールをグッと睨みなおした。

「傷を突かれる前に勝負をつける!」

 勝負に出た、スラスターを全開にして最大加速で突進する。迎え撃つジムとボールは、ビームライフルとキャノン砲の飽和攻撃を浴びせた。傷面に被弾したストライクフリーダムMR‐Gの追加装甲キットが一枚、また一枚と断裂し脱落していく。全部盛りの機体が重量バランスを大きく崩した、マニューバ性能を一気に失う。

 勝負はついた。


 敗退したダイバー達は既に退散し、シモダの事務所には、シモダとローレッタとボール、加えてジムが戻っていた。

「え? いいの? 賞品のゴールデン・ポリキャップ貰っても? 二対一でバトっちゃったのに」

 ボールはそう言いつつも、遠慮なしに両手を差しだした。

 シモダは苦笑しつつ、賞品であるゴールデン・ポリキャップを渡して、

「たとえボールさんが一人だったとしても……ガンプラの表面処理の甘さを見つけられた時点で、ボクの敗北は決まったようなものでしたから」

「よしっ! これでゴールデン・ポリキャップ2つ目! なんの役に立つのかは、ちょー謎だけど!」

 とりあえずガッツポーズのボールの隣で、

「じゃ、特別賞と言うことで」ジムが悪びれることもなく言う。「ローレッタちゃんはオレが」

 ローレッタは冷ややかな視線を向けた。

「あたしは賞品違うし」

「ローレッタ女史」

 シモダはローレッタの前に歩み立った。

「ボク、何かを見つけられたんでしょうか?」

「あたしにはわからない。でも、あなたは逃げなかった」

 シモダはハッとなった。そうだ、自分は勝てなかった……でも、逃げなかった。

「ボク、大好きです」

「え?」

 驚いたように頬を染めたローレッタを、シモダはまっすぐに見つめて、

「ガンプラも……仕事も」

「あ……ああ、そっちね?」

 彼女は、別の意味で赤面しつつ、

「……いつでも戻っていらっしゃい」

 シモダは嬉しそうにうなずくと、こんどはボールとジムの方を向いた。

「お恥ずかしい話、GBNにログインして以来、ガンプラつながりで出来たお知り合いは、お二人が初めてなんです。もしよかったら見て貰いたいものがあるんですが、事務所裏の倉庫に──」

 言いつつ向かい歩み出そうとしたシモダは、ふと、二人を振り返った。

「お二人って本当に息ピッタリのフォースですね」

 突然の言葉に、ボールとジムは目をぱちくりさせた。

「フォース名を教えてもらってもいいですか?」

 シモダは聞いた。

「え? えっと……」

 戸惑うボールの隣で、ジムはニヤリと、

「ブイカーズ」

 人差し指と中指でビクトリーマークを作った。

「『勝利のカード』?」

 ローレッタが問う。

「考えててくれんだ?」

 ボールも驚きジムに問うた。

「いい名前だと思わね? ゴキゲンなパーリィエンジョイするのに……二人で」

 微笑むジムに、

「それもフィアンセ?」

「オレに決まってんじゃん」

「ふぅん……ま、悪くないんじゃない?」

 ボールは白い歯を見せた。