「Sweet Child O' Mine 〜 こんなガキ共、甘いモンよ! 〜」
「で、もう少しってトコでボールのズラがズレちゃってさ──」
「違うって! 先にズラがズレたのはジムの方じゃん!」
「ま、どっちにしろそれで、オレらがなんちゃって女子だっての他の生徒にバレちゃって、やべぇってなったんだけどさ、結局なんやかんやでガンプラ女学園の学園長が3つ目のポリキャップくれて」
「って言うか、レジェンド・ガンプラのビルダーって全員『こいつが?』ってひとばっか……とか言いつつ、レジェンド・ガンプラってのが何なのか、僕らもぜんっぜん解ってないんだけどぉ」
「だけどぉ」
そう言うと、GBNで最近評判のスイーツカフェのテーブルで、ふわり可愛らしい装飾も上品な店内には似つかわしくない暑苦しい笑い声をあげるジムとボールを前に、ノズとマーキーは、ぽかんと唖然の口を開けたまま固まった。
「ごめんなさい、ちょっと確認させてもらっていい……?」
ノズは、質問をしぼり出した。
「それじゃ、ゴールデン・ポリキャップっていうのは、ガンプラの関節にはまってるんじゃないの?」
「そ、実際にガンプラに使うヤツとは違うっぽい……飾りモン、みたいな? GBNのなかでもべつにでっかくなってなくて……落っことすとどっか行って見つからなくなるみたいな、リアル世界のとおんなじ、ちっこい感じ」
ジムがしれっと答える。
ノズは、持っているフォークを、手を拳にして握り直すと、
「……だったら、わたしたちはなんの為に、手当たり次第にガンプラひっ捕まえて、腕から足から何百本ともぎってきたのよ……!」
ぼそり吐き棄てながら、ハニーホイップがたっぷり乗っかったパンケーキに突き刺した。
「え?」
「なに? もぎる……?」
ジムとボールが聞き返す。
咄嗟にマーキーはノズの腕を掴み、彼女の口にパンケーキを押し込んで栓をすると、
「…………えっと、その、あたしたち普段、映画館でチケットもぎりのバイトやってて…………」
ノズもハッと笑みを作り、
「ほふはんへふぅ……(そうなんですぅ)」
懸命に口の中のものを飲み下すと、
「それにしてもこのお店、本当に美味しい!」
「でしょー! 僕が推したんだ!」
「パンケーキがいいんじゃねって言ったのはオレだけど!」
無邪気に張り合う二人は、もちろんはぐらかされた事になど気づいていない。
それどころか、ボールが、
「でもホントにゴメン、肝心なゴールデン・ポリキャップの実物、忘れてくるなんて」
素直に謝ると、ジムも続いて、
「ノズちゃんとマーキーちゃんに会えると思ったら、二人のことで頭ん中いっぱいになっちゃってさ」
「もうっ、そんなこと言われたら、怒るに怒れないじゃない」
ノズは困り顔で肩をすくめ、隣のマーキーに小さな笑みを向けた。
マーキーも笑みを返すと、ジムとボールに向き直って、
「…………でも、いろんなお話聞けたし、すごく楽しかった…………」
「本当に!?」
ジムとボールが同時に身を乗り出す。
ノズは、マーキーとともに圧倒されつつ、ほんのり頬を染めると、
「それに……」
嬉し恥ずかしげに目を伏せて、
「おかげでまた、二人と会える口実ができた」
「…………ほんと尊敬するわ、あんたのその、いつでもどこでもどんな相手にだろうと、嬉し恥ずかしそうにほんのり頬染められる特技…………」
呆れ言いつつ並び歩くマーキーに、ノズは、
「ま、このワザ一本でウチのライブの物販、ほとんど支えてるようなもんだし」
コキコキと首を片手でほぐしながら答えた。
二人は、天にも昇る様子でそのままガンプラカラオケになだれ込もうとしたジムとボールを「今日はこのあと用事があるから」と、寸止め状態にして店をあとにした。とにかく仕入れた情報を、活きのいいまま闇の声の主に伝えるべきだと考えたからだ。
「にしても、思い込みって恐ろしいね。ポリキャップって聞いた瞬間から、ガンプラの関節にハマってるもんだとばっかし」
「…………無駄にGBNにいるガンプラの手やら足やら、全部もぐところだった…………」
「しかもゴールデンなそれ、ひとつじゃなくて、全部で7つあるってさ」
「…………しかもしかも、レジェンド・ガンプラのビルダーがその持ち主とかって、ドコの少年漫画だよ…………」
「やっぱそいつら、全部集めなきゃなんないのかな」
ノズは眉間に皺を寄せた。
マーキーも思案して、
「…………とりあえずあの二人、3つ見つけたって言ってたから…………」
「それはもういただいたも同然として」
「…………残り4つ…………」
するとノズは、しばし考えをめぐらせたのち
「しっかし笑うよね」
と、言葉通り馬鹿にした笑い声を上げた。
「あいつら、ゴールデン・ポリキャップ全部集めたところで、なにが起こるか全然知らないとかって。しかも、なんかゴールデン・ポリキャップのおかげでGBNに閉じ込められずに済んだとか……なんじゃい闇金型マフィアって」
一方でマーキーは、興味なさそうに
「…………どうでもいい、とにかくこっちは、念願のバンドデビュー出来んだし…………」
「だね。んじゃ、手に入れた情報とっとと報告しよ。ひょっとしたらこのネタだけでも、小遣いくらい貰えるかも」
うふふと夢膨らましかけて──ふと、二人は、きょとんと顔を見合わせた。
「で、どうやって連絡するの? っていうかそもそも、誰に?」
フォースネストに帰り着くまではニヤニヤが止まらなかったジムとボールだったが、置き忘れたゴールデン・ポリキャップがテーブルの上に無造作に転がっているのを見たボールは、ふと、
「でもさ──」
と、表情を曇らせた。
「考えてみたら、ノズちゃんもマーキーちゃんも、こいつに興味があるんだよね」
「だな?」
「だったら、僕らが浮かれたところで、しょうがないのかも」
「なんで?」
ジムはけろりとボールを見ると、
「なら、これからオレらの魅力、見せつけていけばいいんじゃね?」
「……僕らの魅力……って、なに?」
言われてジムは、しばし頭をめぐらせて、
「そりゃやっぱ……ガンプラ?」
「とは言ったけど──」
ジムとボールは先のリベンジとばかりに、ノズとマーキーに遊園地ディメンションでのガンプラデートを提案した。
観覧車やメリーゴーランドやコーヒーカップを背にして凜々しく立ち二人を待つガンダムストームブリンガー、その隣にポリポッドボール、その脳天には、
「お前……それで来たんだ」
180mmキャノンに代わって、件の巨大スピーカーが鎮座している。
ボールは、目をキラキラさせながら、
「前の時は二人に披露できなかったからさ! それに今回は他のメインウェポン候補も連れて来たし!」
見れば傍らには、ウェポンコンテナが二つ。
「中身見んの怖いんですケド」
ジムがやれやれと溜め息を吐いた──その時だった、
「……見つけた……」
二人のコクピットにその声は届いた。
「……誰?」
ジムは辺りを見回し、ボールは、
「ノズちゃんの声でも、マーキーちゃんの声でもない……?」
「……間違いない、その異形……」
ヤマタツは、対象検出を告げるセンサーアラームがけたたましく鳴り響く、ガンダムノイズキャンセラのコクピットで、遙か遠くに、ポリポッドボールのシルエットを見据えた。
「……浄化せねば、GBNの悪しきノイズ……フェイク・ガンプラを……」