ガンダムビルドダイバーズワールドチャレンジ ジムとボールの世界に挑戦!

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「Are you gonna go my way 〜 自由への疾走 〜」

 インスツルメンツパネルの明度設定をスペースコンディションにおとした暗いコクピットに、どちらかといえば華奢な体を滑り込ませた彼は、手元も見ず慣れた様子でベイルアウト・シートと自分とをハーネスで固定しながら、TMS(ターゲット・マネージメント・システム)の表示に目をやった。ため息代わりの口笛がこぼれ出る。

「ご機嫌な座標だ」

「行けるか……ヨシ?」

 ラジオ(無線)からコマンダーが気遣い問う。本心では寝ぼけヅラの目ヤニほども心配していないくせに。思わず「はんっ」と鼻で笑ってしまう。

「行けるかもなにも、どうせご指名なんだろ?」

 返事の代わりにジジッとジッパーコマンドが返って来た。「その通り」の意味だ、毎度のこと。

 ジェネレータの鼓動が太く重く、力強く頼もしい響きとなって尻の底をくすぐりはじめた。

 時間はない、事は一分一秒を争う。

「行くさ、どこへだって……」

 両足をスラスト・ペダルに乗せ、コントロール・グリップに左右の手をそえる。親指でトリムタブを微調整しつつ、彼は、開放しはじめたカタパルト・ハッチの先の、星の海から差し込む遠い一点の輝きを見据えた。 「たとえそれが地獄の果てだろうと、俺は……たどりついてみせる……」


「よっしゃぁぁぁぁぁぁーっ!」

 GBNのセンターロビーに、ジムとボールの歓喜の絶叫が響いた。千姿万態なアバター・コスに身を包んだダイバーたちが、ミッション・エントリー・カウンターで両腕ガッツポーズの拳を握る二人に、いっせいに視線を向ける。

 全世界にフェイク・ガンプラをはびこらせようと目論む、ワールドワイド闇金型マフィアの戦慄走る陰謀により、GBNの世界に閉じ込められてしまったジムとボール(詳しくはエピソード0を参照)。二人は、片やフィアンセに鼻面押さえられ今まで作ることができなかったリアル彼女を必ずやゲットするため、片や超推しアイドルのプレミア・ライヴでケミカルブラックライトを思い切りぶん回すため、なにがなんでもこのGBNからログアウトすべく、謎の輝きの中で告げられた声にすがり、現実世界へと戻るキーだと言う『黄金のポリキャップ(ゴールデン・ポリキャップ)』を手に入れようとしていた。

 しかしそのポリキャップは、GBNのどこかに存在するとされる『レジェンド・ガンプラ』が持っているらしい。手に入れるには、まずは、くだんのガンプラにバトルを挑まねば。いやいやいやそれ以前に、そもそもいったいどこに行けば出会えるのか。

 と、いうわけで二人は、とにもかくにも、とりもあえずも、駄目でもともと『レジェンド・ガンプラにレッツチャレンジ!』的なミッションはないものかと、GBNセンターロビーのミッション・エントリー・カウンターを訪れ、

「いいじゃんいいじゃん! オレたちと一緒にLGBP(レジェンド・ガンプラ・バトル・パーリィ)しちゃえばいいじゃん!」と、先のお告げの主が誰なのかという疑問もよそに、相変わらずの様子でカウンター・アテンダントに声をかけるジムの隣で、レコードショップのジャケ漁りよろしくミッションカタログを検索していたボールが、

「ねえねえジムジム!」

「……んだよ、あとひと押しなんだから邪魔すんなよっつーか、そもそも考えてみりゃ『レジェンド・ガンプラにレッツチャレンジ!』なんつー安易なミッション、ハナからあるわけないよねー。こういうのは、自分たちの足を棒にしてマメ作って苦労しながら探し訪ねるからありがたみっていうものが──」

「いやいやいや! ちょ、ちょ、ちょ! これ! これ! これ!」

 と、ジムの首根っこを掴み、掘り当てたミッション・インフォを見せれば、

『ゴールデン・ポリキャップ、袋詰め放題ミッション』

「…………」

 事態を飲み込むのに、暫く時間を必要としたのち、

「よっしゃぁぁぁぁぁぁーっ!」

 と、冒頭のシーンと相成ったわけである。

「んだよ! レジェンド無用じゃん! ゴールデン・ポリキャップ単品で手に入るんじゃん!」

 両手ガッツポーズの拳を握りしめつつ、ジムは、先ほどのありがたみ云々発言も木っ端みじんと驚喜し、ボールは、もはや呆れ気味に天を仰いで、

「単品どころか袋つめ放題! っていうか、どんなミッションだっちゅーの!」


 そのアトラクションは、極東の島国に古くから伝わるトラディショナルなアミューズメントだと、ジムはボールから教わった。

「あと、君が……ジム・タービュレンスがいま持ってる、それ……」

 ポリポッドボールからの交信に、コクピットのジムは、タービュレンスの右手が握っている『それ』を見下ろして、

「テニスラケットみたいなのに、ガットじゃなくてうっすいペーパー張った……これ?」

「うん、そいつの名前は……『ポイ』」

「ポイ……」

 ワイワイと歓声にぎやかに戯れるダイバーやガンプラたちのなか、全高18メートル弱のジム・タービュレンスが手にしているポイの捕獲面は、直径にして一メートルほどだろうか、そこにペーパーを貼り、プールほどもある大きさの水槽にぷかぷか浮かぶ全長一〇センチ程度の黄金色のポリキャップをすくっていくという一見楽勝なミッション、しかし、

「ペーパーの厚みもタービュレンスとおなじく、MGスケール換算で分厚くなってればな」

「こういった狡猾さも、トラディショナルなスパイスだってグランマが言ってた。あ、それと、本来ポイですくうのは、ゴールド・フィッシュなんだって」

 そう言うボールの口調は一周めぐって、なんだか清々しい。

「ガンプラアミューズメントだけに、ゴールド・フィッシュに代わって、ゴールデン・ポリキャップですか、そうですか……」

 結局、すくったぶんだけ袋に詰め放題どころか、たった一個のゴールデン・ポリキャップすらゲットすることも出来ないまま、二人は、代金代わりのフォースポイントを使い尽くしてしまった。いや、たとえそれを手にしていたとしても──見れば、水槽の水面に剥がれたゴールド塗料がゆらゆら浮かんでいる。

「あーこれならオレも知ってる、アレだよ、紫色のスプレーで着色した、ヒヨコ……」

 二人は、今更ながらガックリうなだれた。

 ガンプラバトルがメインではないからだろうか、あるいは、まるでのどかな移動遊園地を思わせるのが理由か、このアミューズメント・パーク・ディメンションには、心なしか子供たちの(姿をした)ダイバーが多い気がする。ゴールデン・ポリキャップ(偽)すくいのほかにも、ピンバイス射的に多色成形機メリー・ゴー・ラウンドなどなど、どこか懐かしげなアトラクションたちに加え、フードの屋台も数件、軒を連ねていた。

「ガンプラバトルでじゃなくて、アトラクションやったりフード売ったりしてフォースポイント貯めてるダイバーもいるんだね」

「ここだけのルールらしいし」

 そのため、このディメンションでは特別に、ダイバーたちの空腹パラメータまでもが設定されていた。

「つーか、すくえるすくえる詐欺に遭うまえに頼んどいたケータリング、まだ来ないんですケド」

 不機嫌を垂れるジムに、ボールも「そういえば」と思い出した。

「だから屋台のフードにしようって言ったじゃん」

「オレ、なにげに外で料理した食べ物って受けつけない系」

 それでもボールは、「なんかあるだろ?」と、ジムでも受けつけられそう系な屋台を探そうと辺りを見回して──ふと、

「……あのさ」

 と、気づいた。

「僕らがGBNにログインしてからいままでに遭ったガンプラ、全部、MGだったかも。ほら、このディメンションにいるのも」

「え? そう?」

 気づかなかったとジムも、あちらこちらでアトラクションに挑んでいるガンプラに目をやるが、

「……んなの、でっかくなったら、グレードなんて区別つかなくない?」

「つくって、素体本来の造形が全然ちがうもん。MGはディテールリアルだし、もともとの可動域広いし、合体とか変形のギミックだって細かく再現されてるし」

 確かにGBNには、グレードを限定したサーバやディメンションがあるとは聞いたことがあった、けれど……果たして、偶然そのサーバにログインすることになったのか……それとも……。

「んなことより、問題はさ」

 そう、なにはともあれ二人は振り出しに戻ってしまったのだ。とにかくいまは本物のゴールデン・ポリキャップを手に入れねば。そのためには、やはり──

「レジェンド・ガンプラ探し出さなきゃ、僕たちずっと、このGBNからログアウトできないよ」

「だからどこにいんだよ、そのレジェンド様は? 全部のサーバの全部のディメンションでシラミ全匹潰す気か? そんな手間、一生ここから出られないのとおんなじじゃね?」

「んなこと言ったってしょーがないじゃん、ってか、自分の足棒にしてマメ作って苦労しながら探し訪ねないとありがたみがーとか言ってたのそっちじゃ──」

 交信ウィドウに映るジムに食ってかかろうとしたボールは、ふと、機体の傍らに、一人の少女が立っているのに気づいた。

 見た目の年頃は高校生くらいだろうか、肩に掛かるほどの髪をうしろにひとつ結び、はっきりと開いた大きな瞳を強くこちらに向けて、なにやら叫んでいる。

「……?」

 確か外部マイクがあった気もするが……スイッチを探すのももどかしいと背後ハッチを開け、機外へと降りるボールを、歩み来た少女が待ち受ける。

「何か用?」とたずねようとするより先に、彼女が告げた。

「あなたたちが求めるものは……もうすぐ、やって来る」

「?」

 そんな二人の様子をいぶかしげに見下ろしていたジムのコクピットに突如、けたたましいアラームが鳴り響いた。

「接近警報……真上から!?」

 ハッチが開けはなれたたままのコクピットより漏れ聞こえたジムからの交信に、ボールも上空を見上げる。

 両者の視線の先に輝く光点がひとつ、昼間の星のごとく確認されたかと思った次の瞬間、その光はみるみるうちに大きくなり、次第に姿をあらわにし──「……スペースクラフト? 宇宙から大気圏へ突入してきた!?」

 おもわず洩らし言うボールたちに迫りつつ、まるで魔法のようにその姿を巨大な人型に変形させた。

「ガンプラ!?」

 ジムは驚き、ボールはコクピットに戻るのも忘れて息を呑んだ。

「ゼータガンダム!」

 現れたゼータガンダムは、更に距離をつめると、ジム・タービュレンスとポリポッドボールの目前の地に、制動をかけつつランディングした。衝撃を受け止めた膝がわずかに屈伸したのち背筋を伸ばして仁王立つ。グッと張った胸部のハッチが開き、コクピット内からその青年は、バスケット片手に、どちらかといえば華奢な姿を表した。

「お待たせしました! おいしさと宇宙をまごころでつなぐ、ケータリングの三木亭です!」