ガンダムビルドダイバーズワールドチャレンジ ジムとボールの世界に挑戦!

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「Plug in Baby 〜 君の心に入りたい 〜」

「だから、ガンプラバトルをスタートする前に『ゴールデン・ポリキャップは渡せない』とちゃんと告げておいただろう」

 ユースケは、驚くジムとボールに向かって、戸惑い気味に言った。

「そういえば……」と思い返すボールの傍らで、ジムは「いやいやちょっと待て」と、

「そう言われたら『お前らとのバトルには絶対に負けねぇ』って必勝宣言だと受け取るだろフツーっ!」

 ユースケが言うには、ジムとボールからリベンジマッチ挑戦の連絡を受けたあと、バトルに備え、フォースネストのガレージで愛機であるバラージュ ザ ヘッジホッグのスジボリ具合を確認している最中に、突然、謎のキュベレイと百式が襲い来たのだという。慌ててガンプラに乗り込もうとしたユースケに、百式は見たこともないスナイパー・ライフルを直接突きつけて牽制。その間にキュベレイが鋭く巨大な爪で、ゴールデン・ポリッキャップがしまってあったラックを、住居部分ごとえぐり奪い取っていったらしい。

「そう言えば、その百式が突きつけたスナイパー・ライフルのシルエット、君たちのガンプラが装備してるウェポンと、どことなく似てた気がするな」

 つまりそれは、そのスナイパー・ライフルが、シモダが与えてくれた多目的統合コンセプトウェポンモジュラー『GHL-TBA』をベースにビルドされているということ──どうやら例の百式に間違いなさそうだ。となれば、連れであるキュベレイもしかり。

 ジムとボールは、しかめた顔を見合わせた。

 

 その連絡が届いたのは、ユースケとのバトルのフィールドだったラグランジュ・ポイント・ディメンションから帰投してほどなく、GBN内のいつものガンプラファミレスで、まさにキュベレイと百式のビルダーについて悪態をぶちまけようとしていた時だった。二人の前に開いたフローティング・ウィンドウに現れたのは、音声も画像もないテキストだけのメッセ。内容は、

『ゴールデン・ポリキャップを取り戻したければ、奪い返してみろ』

 そして、場所と時間の指定。

「今すぐカジノリゾート・ディメンションに来いだぁ? ざけんな!」

 憤りを剥き出すジムの向かいの席でボールは、「でも……」と、一口飲んだトマトジュースのグラスをテーブルに戻し、腕を組み頭をかしげた。

「これって、僕らがゴールデン・ポリキャップ集めてたって知ってるってこと、だよね?」

 ボールの問いに、ジムもハッと思い出す。

「じゃ、もしかして、前に遊園地ディメンションで奴らが襲ってきた時も、オレらからゴールデン・ポリキャップ奪おうとしてたってわけか?」

「けど、もしそうだったとしたら、なんでわざわざ奪い返してみろなんて、こんなメッセ送ってきたんだろ?」

 ボールは自身の問いに思案の眉根を寄せ、

「ひょっとして……欲しくてゴールデン・ポリキャップ、ユースケから奪ってったんじゃないってこと、なのかな?」

 グラスを覆う水滴を見つめた。

「んなの、こんなトコであーだこーだ言ってたってしょうがねぇじゃん」

 ジムは言い返すと、メロンスカッシュが入ったグラスの中から氷をひとつ摘まんで口に放り込み、

「直接会って聞いた方が早いんじゃね?」

 ガリッと噛んだ。


 カツはもう我慢できなかった。

 熱狂的大ファンとして通い詰めている地下アイドルバンドのライブに、このところ、どうにも本気度が欠けている気がしてならないのだ。特にメンバーのなかでも一、二に推している不動の二大センターに、目に見えて気合が足りない。けれど、オーディエンスの誰もが、そのことに気づきもしないで、今日もステージに向け、自分よがりでルーチンワークな声援を垂れ流している。

「……修正してあげられるのは……ボクしかいない……」

 いつもならステージが終われば我先にと物販ブースにダッシュするところだが、今日は違った。人の流れ(とはいっても小川の如くささやかなものだ)から外れ、ひと目を避けながらステージ裏を目指す。このタイミングなら少人数でライブを切り盛りしているスタッフ達もほぼ全員が物販に回っている筈だ。案の定、誰の目にも触れることなく、カツは楽屋の前にたどりついた。

 よくないことだとは承知していた。

 それでも彼は、心を鬼にして中に忍び込んだ。

 楽屋内は、まるで女子高生の部活動の部室を思わせた。食べかけのお菓子たちの甘くまざりあった香り、おもちゃ箱をひっくり返したように散らかっている。見回せば一角に、目当てのバッグが置かれていた。ひとつはサイケな彩色の花柄トート、もうひとつは黒無地で飾り気のないシンプルなリュック。公式ブログの写真で何度も見かけたことがある。カツはポケットから用意してきた手紙を二通取りだした。熱烈ファンとしての彼の想いの丈を、そして熱烈ファンであるからこそ、もっとステージに集中して欲しいという苦言を一心に綴った、一世一代のファンレター。物販ブースで手渡すことも出来たかもしれない。けれどそれではきっと、他の皆が渡すファンレターに紛れてしまうだろう。必ず封を開けてもらえる、インパクトある渡し方がしたかった。

 カツは最初にトートバッグの前に歩み寄った。差し入れるべきファンレターの宛名を確かめる。

『のぞみん様へ』

 想いが届きますようにと大きくひとつ、期待と不安の深呼吸をし、トートの口を開け、封筒を忍び込ませようとした──その時、いまにも爆発しそうなほどにドキドキ高鳴っていた鼓動がハッと凍った。

 物販を終えたメンバーたちの声が近づいて来る。 

「もうっ!?」

 カツは慌てて手紙をポケットに戻すと、急ぎ足で楽屋を後にした。

 運よく誰にも見つからずにライブハウスを後にした彼は、寂しげに灯る街灯の下、家路につきながら、のぞみんのトートバックの中に見た物を、頭の中で驚きながら反芻していた。MGキュベレイのカスタムガンプラ、しかもその見事な造り込み……。

 カツは地下アイドルバンド『Le Petit Chaperon rouge(ル プチ シャペロン ルージュ)、通称プチ・ルー』に夢中だった。

 そして負けず劣らずガンプラが、GBNが大好きだった。


 メッセで指定されたカジノリゾート・ディメンションは、広大な砂漠のオアシスに築かれた、ラスベガスを思わせるカジノ都市を摸してつくられていた。贅を象徴するかの如き、ふんだんな水量の噴水アートをシンボルとした高級カジノホテルが建ち並ぶ街は、本来の目的であるフォース戦が開催される際には大勢のギャラリーで賑やかに溢れかえるのかもしれなかったが、いまは人影もなく、太陽の下、空回りするように明滅する派手派手しいネオンがかえって虚しく、まるでゴーストタウンの様相を見せている。

「気をつけろよ、あの百式がどっから狙撃してくるかわかんねぇからな」

 コクピットのジムは、ささやくようにラジオ(交信)でボールに告げた。ホテルを盾に機体を隠しつつ、周囲を警戒しながら慎重にガンダムストームブリンガーを歩ませる。その背後をポリポッドボールが多脚を静かに動かし、地を這い続く。そのコクピットでボールは訝しがった。

「離れた場所で狙撃位置についてる百式はともかくとして……いくらホテルがでかいっていっても、キュベレイだってほどほどのビル程度の大きさはあるんだ。隠れてても気配くらいは感じていいと思うんだけど……」

 確かにボールの言うとおりだ。大都会の様なビルの密林ならともかく、オアシス都市のホテル群程度に視界が開けていれば、機影の一部くらいはがうかがえておかしくない。

「まさか呼び出しといて、バックレたとか言わねぇだろうな……」

 独り言のように呟いたジムは、ふと、外の様子を映し出している外周スクリーンの片隅に人影が映り込むのを見つけた。「?」と反射的に拡大する。その人物は──

「ノズちゃん!? マーキーちゃん!?」思わず声に出す。

「え!? ドコ!?」ボールは驚き目を皿にした。

「ほら、あの、茶色いホテルの車寄せ……入口の前の噴水のトコ!」

 ジムに言われた方に急いでポリポッドボールのメインカメラを向けた。100m強ほど先、拡大する。

「……ほんとだ! なんで!?」

「わっかんねぇけど、こんなトコにいて……あのキュベレイが襲ってきたらバトルに巻きこまれっぞ!」

 言いつつジムは、マイクのセレクターを切り替え、

「外部スピーカーで警告する!」

「待った!」

 ボールの強い声にジムは手を止めた。

「もしキュベレイが隠れてこっちの位置を探ってたら、場所を教えることになる!」

 ジムはチッと舌を鳴らすと一瞬思案したのち、意を決しストームブリンガーから降機した。

 

 ボールに周囲の警戒を頼むと、ジムは、ノズとマーキーがいるホテルの車寄せまで全速力で走り来た。

「ノズちゃん! マーキーちゃん! なんでこんなトコにいんのかは知らないけど、ここにいちゃヤバいんだ! いまからガンプラバトルの戦場になるから!」

 息を切らしながら告げ……ふと感じた。

 何かヘンだ。

 ノズとマーキーは、驚くことも戸惑うこともなく、何も言わず、ただまっすぐにこっちを見つめている。まるで自分たちがやって来ることを知っていたみたいに……。

「…………え?」

 ジムは辺りを見回した。

 やはりキュベレイの姿はない。

 百式からの狙撃もない。

 ノズとマーキーに視線を戻す。

 二人はジムを見つめたまま。

 なにやらノズが片腕をのばした、握っていた手のひらを開く。

 ゴールデン・ポリキャップが五つ、現れた。

「……なんで……それ、持ってんの?」

「……んなの、決まってんじゃん……」

 しばしの思索……ジムはハッと理解した。

 今度は彼の方が言葉を失い、黙り込む番だった。

「ホントならゴールデン・ポリキャップ手に入れちゃえば、もうあんたらに用なんてなかったんだけど」

 ノズは、無表情なマーキーの隣で小馬鹿にする様に薄く笑んだ。

「あんたのツレのクズ虫みたいなガンプラには……なんだったっけ?『メシ食う時もクソする時も夢ん中でもメチャクチャ悩んで考えて……そんな気持ちが溢れてる』んだっけ? はんっ、んなヘド出そうなくらいガキ臭いこと言ってるから、心底ムカついてさ」

 けれどその笑みは、どこか別の感情を懸命に隠そうと……取り繕おうとしている様に見える。

「二度とそんな口聞けないように、ボコボコにしてやろうと思ってさ」

「……あぁ?」

 ジムは思わず嫌悪を洩らした。

 そんな彼の感情をわざと逆なでするように、ノズが続ける。

「あの腐れオタクに言っとけよ……なにが『のぞみんやまゆゆんたちの歌が教えてくれてる』だぁ? んな奴らどうせ、アバズレのアイドルもどきに決まってんだろうが。そんなつくりモンの安売りスマイルに騙されほだされてねぇで、とっととリアルで女作れって。どんなブスだろうとクズ女だろうと、あいつらに比べりゃ天使に違いねぇってな」

「そんなことない!」

 ノズとマーキーは、そしてジムは、声の方を見向いた。

 いつしかボールもポリポッドボールから降機していた。自信に満ちあふれる目でノズを、マーキーを見据えている。

「ル プチ シャペロン ルージュはもどきなんかじゃない。正真正銘、僕のアイドルだ。彼女らこそが僕の天使なんだ、女神なんだ」

「あんたになにがわかんのよ!」

 ノズの怒鳴り声に、しかしボールは物怖じひとつせず、それどころか揺るぎなく真っ直ぐと、

「わかるよ! だって僕はプチ・ルーの、一番のファンなんだから!」

 ノズは思わず、責められているかの様に苦しげに表情をゆがめた──その時、

「ふざけないでよね」

 その声は頭上から聞こえた。見上げれば、いままさに、四人がいるカジノリゾート・ディメンションに向かって、一体の巨大なガンプラがダイブインしようとしている。リゾートホテルの一棟を下敷きに押しつぶしながら、地響きをたてて傍らに着地した。

「…………このガンプラは……MGジ・O…………!」

 マーキーが思わず呟く。

「それだけじゃない!」

 ジムは咄嗟に、脳内のエア・トリセツを探って、

「ナイチンゲールとリミックスして要塞化してるのか!?」

 その偉容に唖然としているジムに、ノズに、そしてボールとマーキーに、ジ・Oのビルダーは──カツは、外部スピーカーを通し、

「プチ・ルーの一番のファンは、ボクに決まってるだろ?」

 告げると、ジ・Oの腕がノズとマーキーに向かって伸び、あとずさろうとする二人をそっとつかまえた。

「!」ともがく二人に、カツの声が優しく、

「だから、ボクが君たちを修正してあげるよ……のぞみん、まゆゆん……」

 ノズとマーキーは息を飲んだ。

 ボールは「え?」と目をパチクリさせ二人を見た。

 両者の様子にジムが戸惑う。

 そんな中、ジ・Oは二人を掴んだまま、移動用ホバーをフルに稼働させた。辺り一帯が巻き上げられた砂塵にまみれる。視界が回復するまでゆうに三分はかかった。

 見ればノズとマーキーを連れ、ジ・Oは姿を消していた。

 唖然と立ち尽くすジムの隣で、ボールが声を漏らした。

「あの二人が……プチ・ルーの……のぞみんとまゆゆん、だって……?」

 

 ジムは憮然としながら、ボールは呆然としながら、それぞれのガンプラに搭乗し直した。コクピットの中で思いを巡らせる。

「悔しいよ……」

 ボールが噛みしめ言う。

「だよな!」

 ジムも拳を固く握って、

「あの二人が、ハナっからゴールデン・ポリキャップ狙いでオレたちに近づいて来てたってことも、ポリキャップ取り返す暇もなしに訳わかんねぇジ・Oがあの二人かっさらってったことも!」

「じゃなくて、ノズちゃんとマーキーちゃんの正体がプチ・ルーののぞみんとまゆゆんだって気づけなかったってこと!」

「あ、そっち……?」

 ボールは自己嫌悪に頭を抱えた。

「そういえば初めてノズちゃんと出合った時、のぞみんの声に似てるなぁって思ったのにぃ! これじゃ二人の正体知ってたあのジ・Oのビルダーにプチ・ルーの一番のファンだって宣言されても言い返せないよ!」

 思わず地団駄を踏むと、ぐっと顔を上げた。

「取り返しに行かなきゃ!」

「ゴールデン・ポリキャップを、ノズとマーキーから?」

「じゃなくて、ジ・Oのビルダーから!」

「あの二人を、か?」

「この僕がプチ・ルーの一番大ファンだって称号を!」

「あ〜はいはい」

「もちろん、ノズちゃんとマーキーちゃんも──のぞみんとまゆゆんも助けないと!」

「ま、なんにせよ──」

 気づけばジムの表情が、何やらわくわくと不敵に笑んでいる。

「やられっぱなし取られっぱなしってのは性に合わねぇし」

「けど、どうしよう?」

 ボールの思考も、いつしかバトルモードに切り替わっていて、

「あれだけのデカブツガンプラ、真っ正面からまともにぶつかったところで、簡単には勝たせて貰えないかも」

「確かにわざわざ出向いてって返り討ちなんざ、それこそ性に合わねぇしな!」 

 

 カツは、自身のフォースネストに帰投することなく、カジノリゾート・ディメンション内の砂漠に陣を張った。正直ナイチンゲールと合体し巨体要塞化させたジ・Oは、機動力という点では他のガンプラに対し劣勢と言えた。もし先ほどの二人組──ジムとボール──が追ってきたとすれば、多脚のボールはともかく、ガンダムの方は、機動戦闘にて対処困難な事は刃交わさずして目に見えている。しかし、障害物がなく三六〇度周囲を見回せる砂漠上なら、ふんだんに装備した武装の攻撃力を余すことなく発揮できる砲台として、バトルを優位に進められる。加えて、接近する脅威対象を発見することも容易だ。

「さてと」

 カツは、警戒システムを全周囲警戒モードにセットすると、ひとつ息をつき、外周モニター越しに、ジ・Oの手がそっと握り掴んでいるノズとマーキーを見据えた。

「派手に暴れてるキュベレイの噂は聞いてたけど、まさかそのビルダーがのぞみんだったなんてね、調べてみてびっくりしたよ。しかもまゆゆんまで百式でGBNにログインしてるなんて」

 外部スピーカー越しにカツの声が聞こえる、けれど、ノズとマーキーからコクピット内の彼は見えない。代わりにジ・Oのモノアイを無言で睨みつける。

「駄目だよそんな顔、プチ・ルーらしくない」

 カツはやれやれと呆れて言った。

「こんな顔しちゃうのも、最近ライブに熱が入っていないのも、全部GBNによそ見してるせいなんだね?」

 ノズとマーキーはハッとした。

「GBNは関係ない!」

 思わずノズが叫ぶ。

「GBNは……ガンプラは、アイドルなんて似合わないコトしてるあたしたちの、心の歪みを癒やしてくれる、拠り所なんだ!」

「ヘンなこと言わないでよ、のぞみんもまゆゆんも、アイドルの星の下に生まれるべくして生まれてきた、絶対の存在じゃないか」

 カツは悲しげに眉根を寄せた。

「そんなおかしなこと言うなんて……やっぱり二人にはGBNから退いて貰わないといけないね。その分のパワーを全部、ライブに注いで貰わなきゃ。それが嫌なら、せめて二人がGBNにログインしていることを皆に告知しないと。ファンのみんなで順番にGBNにログインして、のぞみんとまゆゆんを見守っていてあげれば、きっと二人ともおかしなこと言わなくなるよね」

 ノズとマーキーは焦った。もしそんなことされたら、唯一の喜びと安らぎを与えてくれる大切な居場所が失われてしまう。

「ふざけんなっ!」

 思わず怒鳴ったノズの声は、しかし、突如コクピットにけたたましく鳴り響いた接近警報にかき消された。

「来たね……」

 カツは火器管制システムをホット状態にすると周囲を見回した。ごま粒にも満たない大きさの黒点が上空彼方から近付いてくる。拡大すればそれは、ストームブリンガーの勇姿に姿を変えた。

「さっきのあのガンダム……!」

 その手には、G.H.L‐M.A.D GUNを直列で連結した、超ロングレンジ仕様が握られている。これで遠距離から奇襲攻撃をかけるつもりだったが──

 しかし、ストームブリンガーのコクピットでジムは、ジ・Oがノズとマーキーを掴み持ったままでいるのを確認し、「やべぇやべぇ!」と苦虫を噛んで、

「M.A.D GUNぶっ放す前にジ・Oの様子確認しといてよかったぜ! つーか、このまんまバトったらあの二人巻きこんじまう! 攻撃できねぇ!」

 ストームブリンガーと反対の方角からは、ポリポッドボールもジ`Oに接近していた。その脳天にはG.H.L‐M.A.D GUNを並列で三連装した斉射パワーアップ仕様が。しかしジムと同様、ボールも、トリガーボタンに掛けていた指を離して、

「くそぉ、二人をあんなに危険な目にあわせておいて……なにがプチ・ルーの一番のファンだよ!」

 ボールはラジオ(交信)のチャンネルを開くと、ジ・Oに向かって、

「奪い返しに来たよ!」

 その声は、ジ・Oのコクピットのカツに、そして、ジ・Oの外部スピーカーを通してノズとマーキーにも届いている。当然ジムとボールが奪い返しに来たのがゴールデン・ポリキャップだと高を括っていた二人は、ボールの声が、

「プチ・ルーの一番の大ファンの座を!」

 と続いたのを聞いて、思わず「……はぁ?」と間抜けな声を洩らしてしまった。

 しかしカツは、その表情をギッとこわばらせて、

「……だから、ふざけないでよ……一番のファンは、ボクだって言ってるだろ!」

 ジ・Oはいったんノズとマーキーを地上に降ろし解放すると、ポリポッドボールに向かって、まさに砲台が如き激しい砲撃を開始した。

「もしそっちが一番だって言うなら! このボクを倒してみなよ!」

 激しく着弾しはじめた至近弾の中、ボールはとっさにポリポッドボールの多脚で辺りに砂塵を巻き上げ、煙幕代わりにして身を隠した。

 一方で、上空彼方からジ・Oを見下ろしているストームブリンガーは、ノズとマーキーが安全な距離まで離れたのを確認すると、G.H.L‐M.A.D GUNを構えようとした。しかし、そんなストームブリンガーに対しても、ジ・Oは激しい砲火を浴びせる。

「ポリポッドボールを攻撃しながら、同時にコッチにも弾幕張れんのかよ! んなのマジで砲台じゃん!」

「って言うか、砲撃が激しくて……このままじゃ接近することも出来ない!」

 ジ・Oを遠巻きにするしか出来ないポリポッドボールとストームブリンガーの様子に、カツは満足そうな笑みを浮かべると、

「ほうら、やっぱりボクが一番じゃないか!」

 そんな戦いの様子を、ノズとマーキーは、息を飲み見据えている。

 と、弾幕のわずかな隙を縫い、ストームブリンガーが、凄まじいマニューバでジ・Oに接近した。カツは「!」と一瞬、ストームブリンガーに意識を集中させ、近接戦闘用として装備してあったファンネルをくりだした。ジムは巧みな機動で必死にファンネルを撃破する。そこにジ・Oの砲火が襲いかかる。ジムは再び距離を置いた。

 カツは急いでポリポッドボールに再び意識を向けた、ところが──

「ヤツが……消えた!?」

 ドコを見回しても、その姿が見当たらない。驚き戸惑っていると──突如、ジ・Oの正面の砂漠が盛り上がり、砂の中からポリポッドボールが姿を現した。三連装G.H.L‐M.A.D GUNの砲口を、ジ・Oの機体に突きつける。

「砂の中に潜って、近づいてきた、のか……!」

 カツは動揺に固まった。これだけ間近にまで接近されては中長距離戦闘用の砲では照準できない。ファンネルを向けようにもストームブリンガーがすべて撃破した。

 勝負はついた。

 

 勝負の行方を見守っていたノズは、まるでそれまで呼吸するのを忘れていたかの様に大きく息を吐いた。そんな彼女の傍らで、マーキーがクスクスと笑い出す。「?」と顔を向ける。

「…………あんなに一生懸命になってくれるファンがいるんだ……プチ・ルーも、悪くないんじゃない?…………」

 それまで曇り空のように淀んでいたノズの表情に、ゆっくりと陽がさした。

 そこへ、ポリポッドボールから降機したボールと、ジ・Oから降機したカツが、「バトルの勝敗とこれは別! ボクの方がプチ・ルーの一番のファンだ!」「何言ってんだよ、勝った方が一番だってそっちが決めたんじゃん!」等々、口角泡を飛ばしつつやってきた。

「んじゃいっそ──」カツが提案する。「どっちが一番か、のぞみんに決めて貰おうよ!」

「いいよ!」ボールも同意する。

「ねぇ、どっち!?」

 同時に言うと祈る様に見つめるボールとカツの頬に、ノズは「ありがとう……」とキスをした。二人の顔が真っ赤に茹であがる。思わずマーキーが大笑いする。そこへ、

「あ! なんだよそれ! いーなー!」

 と、ジムがやってくる。

「オレにはオレには!」

 頬を指さし、キスを催促するも、

「あんたはあたしらのファンじゃないじゃん」

「いまからファンになるから!」

「そんないい加減なこと言ってると殺されるかもよ。あたしらの大切なファンに」

 ノズとマーキーは、ボールと、そしてカツを見つめ、優しく微笑んだ。

 カツはボールと共に二人を見つめ返した。そして、

「……ごめん……」

 小さく言う。

 ノズは首を横にふり、マーキーは一歩カツに歩み近づいて、

「…………もしよかったら今度、一緒にガンプラバトルしない? GBNで…………」

「……うん!」

 その時だった、突如五人を眩い輝きが包み込み──気づけばカツの手に、黄金に輝くポリキャップが握られていた。

「それじゃ、君が……6人目のレジェンドガンプラ・ビルダー?」

 ボールが──皆がカツに注目する。

「……え?」

 カツは驚いているボールの、そしてジム、ノズ、マーキーの顔を見回すと、再度、手の中にあるゴールデン・ポリキャップを見つめた。